年下ピアニストの蜜愛エチュード
だが、それももっともな反応だと思う。アンジェロはすばらしい芸術家で、同時に彼女の甥でもあるのだから。
(早々にダメ出しされなかっただけ、よかったのかも……)
なぜこうして彼の隣にいられるのか、千晶は今もふしぎでならなかった。
その後もアンジェロは誰かに会うたびに、屈託ない様子で千晶たちを紹介し続け、なごやかな時間が過ぎていったが――。
(あら?)
千晶はふと、順がしきりに目をこすっていることに気がついた。
慌てて腕時計を見ると、八時を少し過ぎたところだった。いつもならまだ起きている時間だが、今日は一日中動き回っていたので、疲れて眠くなってしまったのだろう。
「どうしたの、千晶?」
すぐにアンジェロが声をかけてきたので、肩をすくめて順を指差した。
「私たち、そろそろ失礼しようと思います。順、もう限界みたいだから」
千晶は身を屈め、順に「帰ろうか」と声をかけた。ところが、
「やだ!」
順は意外にも帰宅を拒み、めずらしく駄々をこね始めた。
「もっとここにいようよ、ちあちゃん。帰りたくないよ!」
「だって順、すごく眠そうだよ。今日はもういっぱい遊んだから、もうおうちに帰ろう」
「やだよ、やだよ!」
いつになく機嫌が悪いのは眠いからだろうか。だが順が大声で泣き出したりしたら、この場の空気を乱してしまう。
「順、お願いだから――」
焦った千晶が順の手をつかもうとした時、アンジェロが先に動いた。
すばやく順と手をつなぎ、ゆっくり跪いたのだ。さらに目線を合わせ、穏やかに話しかける。
「ねえ順、星を見に行こうよ」
「星?」
「そうだよ。このビルの屋上からは、きれいな夜景や星空が見えるんだ。どう?」
「行く!」
「よし、じゃ出発!」
「しゅっぱつ!」
アンジェロが立ち上がると、半分べそをかいていた順も笑顔で歩き始めた。
「行こう、千晶」
「アンジェロ」
さっきのように、ごく自然なしぐさで反対側の手を差し出される。千晶は大きく頷き、その手を握った。
(早々にダメ出しされなかっただけ、よかったのかも……)
なぜこうして彼の隣にいられるのか、千晶は今もふしぎでならなかった。
その後もアンジェロは誰かに会うたびに、屈託ない様子で千晶たちを紹介し続け、なごやかな時間が過ぎていったが――。
(あら?)
千晶はふと、順がしきりに目をこすっていることに気がついた。
慌てて腕時計を見ると、八時を少し過ぎたところだった。いつもならまだ起きている時間だが、今日は一日中動き回っていたので、疲れて眠くなってしまったのだろう。
「どうしたの、千晶?」
すぐにアンジェロが声をかけてきたので、肩をすくめて順を指差した。
「私たち、そろそろ失礼しようと思います。順、もう限界みたいだから」
千晶は身を屈め、順に「帰ろうか」と声をかけた。ところが、
「やだ!」
順は意外にも帰宅を拒み、めずらしく駄々をこね始めた。
「もっとここにいようよ、ちあちゃん。帰りたくないよ!」
「だって順、すごく眠そうだよ。今日はもういっぱい遊んだから、もうおうちに帰ろう」
「やだよ、やだよ!」
いつになく機嫌が悪いのは眠いからだろうか。だが順が大声で泣き出したりしたら、この場の空気を乱してしまう。
「順、お願いだから――」
焦った千晶が順の手をつかもうとした時、アンジェロが先に動いた。
すばやく順と手をつなぎ、ゆっくり跪いたのだ。さらに目線を合わせ、穏やかに話しかける。
「ねえ順、星を見に行こうよ」
「星?」
「そうだよ。このビルの屋上からは、きれいな夜景や星空が見えるんだ。どう?」
「行く!」
「よし、じゃ出発!」
「しゅっぱつ!」
アンジェロが立ち上がると、半分べそをかいていた順も笑顔で歩き始めた。
「行こう、千晶」
「アンジェロ」
さっきのように、ごく自然なしぐさで反対側の手を差し出される。千晶は大きく頷き、その手を握った。