可愛くないから、キミがいい【完】
「じゃあ、俺から歌いまーす」
コウタ君がマイクをもって立ち上がる。
テンションが高くてやんちゃに染めたミルクティーみたいな髪色はタイプじゃないけれど、マユはすでに頬を染めている。
顔がかっこいいからデートはできないわけじゃないけど、私は、やっぱりしゅう君がいい。
コウタ君が歌い出したタイミングで、離された距離をつめる。そして、しゅう君のブレザーの裾をさりげなく掴んだ。
「ね、しゅう君」
「なに?」
「みゆも実はこれ人数あわせなの。でも、しゅう君と会えたから、来てよかった」
こっそりと耳打ちする。
きっとしゅう君以外の人には誰にもばれていない。狙っている男の子のためなら、小さな嘘も全然アリだ。
しゅう君は、私からやんわりとブレザーの裾を遠ざけて、少し目つきの悪い目をこちらに向けた。
「よかったじゃん」
「うん。えへへ、今、隣にいれて嬉しい」
「へー」
何にも喜んでいなさそうな表情で頷かれる。
「……てか、しゅう君ってなんか寒いし痒いから、和泉って呼んで」
「えー、しゅう君って名前素敵だから、みゆ好きなのに。呼んじゃだめ?」
「ん、だめ」
「……分かった。和泉君、ね。これでいい?」
「ん。案外聞き分けいいのな」
満足そうに、そんなことを言われても嬉しくない。ガードが堅すぎだ。名前くらい呼ばせてくれてもいいのに。
それに、聞き分けがいいって、明らかな上から目線なのも不服だ。
私にそんな扱いをするなんて、イケメンじゃなかったら許されないことなんだけど。
さっきまで、しゅう君って呼んでいたのに、今から名字呼びに切り替える方が、恥ずかしい。
唇がすこしだけ尖ってしまう。
だけど、一瞬で笑顔とすりかえた。