魔法通りの魔法を使わない時計屋さん
「えっ」

 驚いて振り返るが何もいない。彼には何も見えなかった。
 でも、リリカとピゲには禍々しい気を纏った“ソレ”がはっきりと見えていた。

「とりあえず祓いますので、少し伏せていてください」
「え」

 前を向き直るとこちらを指さしているリリカの長い髪が風もないのにゆらゆらと揺らめいていて、彼は慌てた様子で姿勢を低くした。

「――魔女リリカ・ウェルガーの名において命じます。悪しきものよ、今すぐ彼から離れなさい」

 リリカの目が鋭く見開かれる。

「退!」

 彼女の指から放たれた光が、“ソレ”に向かって矢のように飛んでいくのをピゲは見ていた。光の刺さった“ソレ”は悔しそうな金切り声を上げ、霧散した。
 ふぅ、と息を吐いたリリカを見てピゲも威嚇の姿勢を解く。

「消えましたよ」
「え? あ、ありがとう」

 彼は何度も背後を振り返りながらゆっくりと立ち上がった。

「一体、何がいたんだい」
「わかりやすく言うと、悪魔です」
「悪魔」

 彼はぽかんと口を開けた。
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