魔法通りの魔法を使わない時計屋さん

「なんだい、幽霊でも見たような顔をして」
「はぁ~~」

 クスクス笑いながらこちらに歩いてくる彼を見て、リリカは長い長い溜息をついた。

「ちょっとバタバタしてなかなか時間が取れなくてね。ひょっとして、心配をかけてしまったかな」
「貴方の心配じゃなくて、この子の心配をしていたんです。このまま置いていかれるのかと思いました」

 リリカは仏頂面でカウンターに移動し金の懐中時計を彼の前に出した。ピゲはそんな彼女を見ながら素直じゃないなぁと思った。

「あれから、勝手に動いたりは?」
「いえ、何も」
「それは良かった」
「良くないです。もういい加減持ち帰ってくださいませんか?」
「うん。今日はね、この時計を受け取りに来たんだ」
「え」

 リリカが短く声を上げた。
 ピゲも驚いて、少し寂し気な顔をした彼を見上げた。

「実は、もう直す必要がなくなってしまったんだよ」
「……どういうことです?」
「この時計の持ち主が、急に亡くなってね」

 リリカの目が大きく見開かれるのをピゲは見ていた。
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