魔法通りの魔法を使わない時計屋さん

「……どちらですか?」

 お客なら仕方ないというふうに、リリカが訊く。
 その男性客は鞄から取り出したそれをリリカの前のカウンターに置いた。それは古そうな金の懐中時計だった。
 途端、リリカの目付きが変わる。職人の目、いや、小さな子供が玩具を手に入れたときの目だとピゲは思った。

「随分年代物ね」
「わかるかい?」
「えぇ」

 リリカはそれを手に持ち竜頭を押して蓋を開いた。ピゲも一緒に覗くと、確かに針は止まってしまっていた。

「実は他の時計屋にも行ったんだけど皆お手上げで、君の噂を聞いて来たんだ。どうやらその時計には魔法が掛かっているみたいでね、皆直せないっていうんだよ」
「魔法……?」

 リリカの声が一気にオクターブ下がり、目からは一瞬にして先ほどの輝きが失われた。

「君は優秀な魔女なんだろう?」
「……噂を聞いて来たなら、私が魔法を使わない時計屋だって聞きませんでした?」
「聞いたよ。でも君が魔女なのは本当のことだろう? だから君に頼みに来たんだ」
「お断りします」

 はぁ、とピゲは溜息をついた。……折角お金を持っていそうなお客なのに。
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