魔法通りの魔法を使わない時計屋さん

 リリカは出来る限り足音を立てないよう店への階段を降りていく。この時ピゲは自分の手に肉球が付いていて良かったと思った。
 その間もカタコトという音はずっと聞こえていて……。
 階段を降りきったふたりはごくりと喉を鳴らし、カウンターを覗いた。――途端、その音はぴたりと止んだ。

 シンと静まり返る暗い店内をふたりは見まわし、そして目を合わせた。

「誰も、いないね」
「……」

 リリカは小さく息をついてからスタスタとカウンターへと向かい、そこでその目をいっぱいに見開いた。

「これ、あんた?」
「え、何が?」

 ピゲはぴょんとカウンターに飛び乗る。そしてリリカが見つめているものに気づいた瞬間、ぼわっとその長い尻尾がタヌキのように膨らんだ。

「な、ななななんで、これがここにあるの? リリカ引き出しに仕舞ってたよね?」
「……あんたじゃないなら、この時計が勝手にここに出てきたってことになるわね」

 カウンター上の金の懐中時計は今はうんともすんとも言わず、ただ静かにそこにあった。

< 8 / 38 >

この作品をシェア

pagetop