私と貴女の壊れた時計



結芽に連れてこられたのは、大学の近くにあるファミレスだった。


四人席に、二人で座る。


「なに食べようかなあ」


メニューを開いて、楽しそうにしている。

私も同じように開くけど、真宙が作ったほうが美味しそうに見えて仕方ない。


「早紀、なににするか決めた?」
「うーん……」


ただ、メニューをめくるだけ。

食欲をそそられるものがない。


「でも珍しいね、志田君が食事会に参加するなんて」


どこかから、女の声が聞こえてきた。


志田君。


私の知っている志田なのか気になって、メニュー表から顔を上げる。


結芽の奥に、見覚えのある顔があった。

両隣にはおしゃれな女子。


真宙は、私のことなんて放ったらかして、女子と遊んでいたらしい。


私が顔を上げたことで、真宙と目が合う。

真宙も私の存在に気付いたはずなのに、わかりやすく目を逸らした。


やましい気持ちでもあるのだろうか。


遊びたかっただけなら、そう言ってくれればよかったのに。

連絡してくれればよかったのに。


女子とご飯に食べに行くくらいで怒るほど、私の心は狭くない。


「ちょっと、早紀。怖い顔してどうしたの」


声をかけられて、結芽とご飯を食べに来ていたことを思い出した。


「……ううん、なんでもない。私、やっぱり帰る」


メニュー表を元の位置に戻し、カバンを持つ。


「帰るって、なにか食べてかないの?」


結芽は私のしていることが理解できないと言わんばかりに呼び止める。

私も、自分がどうしたいのかわからない。


だけど、一つだけ言えることはある。


「……気分じゃない」


友達とご飯を楽しむ余裕はなかった。
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