身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
周囲には甘いバターの香りが広がっていた。この匂いには幸せが詰まっているはずなのに、彼はなぜか恐ろしいほどのしかめっ面だ。

「もしかしてお嫌いでしたか?」

そういえば彼がお菓子を食べているところを見たことがなかった。けれど以前、私が作ったハニートーストを食べてくれたし、甘いものは苦手ではないはずだ。

「そういう問題じゃない。俺は昨日、おまえにがんばらなくていいと言ったはずだが。病み上がりに、そんな手の込んだものを作ってどういうつもりだ」

帰宅早々に説教され、まさかそんな反応をされると想像していなかった私は慌てる。

「病み上がりだなんて大袈裟です。それにパウンドケーキはけっこう簡単に作れるんですよ」

「俺に口ごたえするな」

ぴしゃりと一蹴され、私は思わず後ずさった。菖悟さんは本気で怒っているようだ。けれど本当に体調はいいしこれくらい平気だと、どうすれば彼に伝わるのだろう。

「すみません……」

結局何も思い浮かず、私はしょぼくれた。
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