身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
結局何も声をかけられないまま、私は彼女を見送った。

「今井先輩、大丈夫ですか? 顔色が悪いです」

事務所に戻ると、あいりちゃんが駆け寄り、私を心配してくれた。

「……大丈夫だよ」

うまく笑えなかった私に、あいりちゃんはきっぱりと言い放つ。

「川嶺さまのことは気にしなくていいですよ。破談になったのは今井先輩が原因なわけじゃないし、罪悪感なんて感じる必要はありません。それにもう高須賀さまは今井先輩を好きなんですから、今さら泣いたって遅いんです。自業自得ですよ」

そんなふうに割り切れたらどれだけ楽だろう。私はお客さまの幸せを奪ったのだと、どうしてもそう思ってしまう。私さえいなければ何か変わっていたかもしれないと、自分が許せなくなる。

「今井先輩と高須賀さまは運命なんだから、誰にも引き裂けません」

私を鼓舞してくれるあいりちゃんに、私は無言で首を横に振る。

私だけ幸せにはなれない。

すぐに身を引くべきだと、私は自分自身に警鐘を鳴らす。
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