その手をつかんで
一度ちゃんと話をしないと、蓮斗さんはこれからも社食にほぼ毎日来るだろう。

忙しいようで、食堂が閉まるキリギリの時間に来ることがある。急いで食べる様子を見て、消化に悪そうと思ったものだ。


「本当に俺と話すのはもうイヤ?」

「わかりました。来週でもいいですか?」

「うん、ありがとう」


イヤかイヤではないかの答えは、返さなかった。

お試しの付き合いをやめる時は、イヤと言えた。

だけど、週替りメニューを食べた感想を真面目に伝える蓮斗さんはイヤではない。

毎日来られるのはイヤだけど。

なんとも言えない複雑な思いを抱いた。これも仕事のひとつだと自分自身に言い聞かせるしかなかった。

離れようもしても、なかなか話をまったくしない関係にならない。本来なら専務である蓮斗さんと話す機会はないはずなのに。

彼に近寄らないでもらいたいとお願いするしかないかな。
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