その手をつかんで
「しかし、偶然とはいえ、嬉しいね。実は今日、俺の誕生日なんだ」


もちろん誕生日なのも知っている。でも、やはり知らんぷり。


「お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう。明日花からお祝いの言葉をもらえるなんて、良い誕生日だな。もし時間あるなら、瑠奈のとこに戻らない? ケーキを用意してくれているから、一緒にどうかな?」


まさか自分の作ったケーキを食べようとお誘いされるとは……最近は想定外のことばかり起こる。

瑠奈の家の近くで、のんびりしていたのがいけない。


「ごめんなさい。もう帰らなくてはいけない時間で、慌ててクッキーを食べていたんです」

「予定があるの?」


今日の予定のメインはケーキ作り。それを無事終えられて、ホッとしていた。他の予定はないけれど、今すぐ帰らなくてはいけない予定を咄嗟に作る。


「妹が来る予定だったのを忘れていて、さっき思い出したんです。私がいないと入れないので」

「そうか。入れなかったら妹さん、困るものね。じゃあ、別の日でいいから、俺に時間をくれないかな? どうしても話がしたいんだ」

「どうしてもですか?」
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