その手をつかんで
彼は目を細めて、外を見る。風で木が大きく揺れている。


「今日は寒いね」

「そうですね。秋も終わりに近いですし、一年早いですよね」

「うん……俺は明日花と一年を終えて、新たな一年も明日花と迎えたいと思ってる」

「はい?」


私と一年を終えて、また一年を迎える?

蓮斗さんの言うことが理解出来なく、首を傾げた。

私の反応に彼は、口元を緩める。


「今日の明日花は、以前の明日花みたいでいいね」

「以前の私ですか?」

「最近笑顔を見せてくれていないから、寂しかったんだよ。でも、今日はまず笑ってくれたし、穏やかに返事もしてくれる」

「えっ? あ、それは……」


今日は我慢週間の最終日だから、気の緩みが出ている。

だけど、そんな私の事情は言えない。言葉に詰まらせていると、頼んだ紅茶が運ばれてきた。

ポットとカップを置いてから、スタッフは蓮斗さんに小声で何かを伝える。

蓮斗さんは微かに頷いてから、立ち上がった。


「ちょっと待っていてもらえる?」

「はい……」


彼が席を離れてから、私はカップに紅茶を注いだ。香りを確かめてからひと口、飲む。

うん、美味しい。
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