その手をつかんで
「専務になったのは最近だけど、知らなかった?」

「最近? へー、そうなんだ。知らなかった」

「じゃ、それほどの知り合いじゃないんだね」

「えっ?」

「えっ? 違うの?」


知り合いじゃないと言う杉田くんの声は、どことなく弾んでいた。

それほどの知り合いじゃないといえば、そうなのかもしれないけど、果たしてそうなのかな?

現段階での蓮斗さんとの関係は、どう説明するのが正解だろう。

お試しの交際はあくまでもお試しだから、専務だという情報も知らされない程度の間柄。

親密ではないのは、確かだ。


「えっと、友だちのお兄さんなの。うん、そんな感じの知り合い」

「そんな感じって、微妙な感じに聞こえるけど。友だちのお兄さんが専務ということは、その友だちは社長の娘さん?」

「そう。その娘さんが私のことを相談してくれて、厚意に甘えたという、そんな感じ」

「そんな感じばかりだね」


杉田くんはおかしそうに笑い、それ以上は聞かなかった。深く追及されなくて、良かった。

お試しという自分でもよくわからない関係は、伝えても理解できないだろう。
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