その手をつかんで
彼女は私の前まで来て、腰をかがめた。


「どの辺りが痛むのかしら?」

「あ、痛み、おさまりました」


驚きで痛みがどこかへ飛んでいった。どこが痛かったのかもわからない。

蓮斗さんが私の背中に手をそえる。


「明日花、本当に?」

「はい、もう大丈夫です」

「さっきより顔色は良くなっているけど、ムリしないで。今日は。送るよ」

「えっ、ひとりで帰れます。それよりもこちらの方と用事があるのでは?」


姿勢を戻したゆかりさんという女医さんを見る。


「特に約束はしていないけど、なにか用?」


蓮斗さんは私を心配していた声色とは違い、冷たい声で訊ねた。

今日は。いろんな蓮斗さんを見ている。穏やかな良い人だと思っていたが、彼だって苛立つことがある。

当たり前のことに気付かされた。


「仕事終わっただろうから、誘いに来たの。一緒に食事しましょう」

「悪いけど、断る。これから、彼女を送るついでに食事もするから」

「いつなら空いてる? 別の日でもいいわよ」

「いや、ゆかりさんと食事するつもりはない」
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