オオカミ社長の求愛から逃げられません!


ぼそぼそと話す声がぼんやりとする頭の片隅で聞こえていた。西園寺さんの笑う声や、複数の男性の声。ここはいったいどこだろう?

目を開けたいのに開かない。きっと薬でも盛られたのだろう。部屋は薄暗そうで、声の響きからして広そうだと察する。タバコの香に混じるように、ほんのり甘い香りもする。これはお酒の匂い?

「で、どうすんの? この子」

あざ笑うような男性の声がする。

「さぁどうしよっか」
「こんな地味な子連れてきたって、誰も相手にしないでしょ」
「でもこの子、八神さんの恋人よ? それだけで面白くない?」

なんの話? 今から何があるって言うの? 縛られているわけでもないのに、体が動かせない。ソファらしき場所に転がされているだけなのに、体がいうことを聞かない。

「この子、なんか気に食わないのよねー。平凡で何も持ってないくせに、いつもニコニコして楽しそうで。幸せぶって癇に障る」

冷たい声が頭上で響く。西園寺さんだ。私のこと、そんな風に思っていたなんて……。

「さくら、お前ひがんでんの?」
「はぁ? そんなはずないでしょ! バカ言わないで。あんたの会社とは取引やめるようお父様に言うわよ」
「わ、悪かったよ……」

それを聞いて話がつながった。そうか。三日月堂の取引先が急に材料を卸せないと言い出したのは、西園寺さんの仕業だったんだ。

だけどどうして? 私が気に入らないからってそこまでする?

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