オオカミ社長の求愛から逃げられません!

「純粋そうでいいじゃん」
「今までにないタイプだ」

四方八方からそんな声と共に手が伸びてくる。どんなに振り払っても振り払いきれない。次々に私の身体に触れようとしてくる。

「ふふふ、いい気味」

西園寺さんが不敵に笑う顔が見えた。

悔しい。だけどなすすべが無い。見ず知らずの男たちに、好き勝手されるくらいなら、ここで舌を噛み切って死んだほうがましだ。

だけどその時ふと、一瞬だけ会場が静かになった。顔を上げれば、後方のドアから一心不乱にこっちに向かってくる人物が見えた。

暗くてはっきり見えないが、それがいるはずのない晴くんに見えた。幻覚でも見え始めたのか。

だけど次の言葉で、それが本物だと確信した。

「里香!」

は、晴くん? 嘘、どうしてここに? 

「彼女から離れろ」

目の前までたどり着いた晴くんは一喝すると、私の手を掴み腕の中にしまい込む。

「ごめん里香、遅くなって」

これは幻? ううん、正真正銘の晴くんだ。この温もり、私は知っている。

「大丈夫か? 怪我はないか?」
「は、はい……」

ホッとしたように、私を再び強く抱きしめる。その途端、一気に涙が溢れた。怖かった、もうダメだと思った。

「晴くん……っ」

愛しさを滲ませながら彼の名前を呼ぶと、ぎゅうっと背中にしがみつく。

「まずいぞ、八神社長だ」
「逃げろ」

背後では、潮が引いたように人が散っていく。彼の存在は、ここに集まる人たちにとって脅威らしい。



< 105 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop