オオカミ社長の求愛から逃げられません!
「純粋そうでいいじゃん」
「今までにないタイプだ」
四方八方からそんな声と共に手が伸びてくる。どんなに振り払っても振り払いきれない。次々に私の身体に触れようとしてくる。
「ふふふ、いい気味」
西園寺さんが不敵に笑う顔が見えた。
悔しい。だけどなすすべが無い。見ず知らずの男たちに、好き勝手されるくらいなら、ここで舌を噛み切って死んだほうがましだ。
だけどその時ふと、一瞬だけ会場が静かになった。顔を上げれば、後方のドアから一心不乱にこっちに向かってくる人物が見えた。
暗くてはっきり見えないが、それがいるはずのない晴くんに見えた。幻覚でも見え始めたのか。
だけど次の言葉で、それが本物だと確信した。
「里香!」
は、晴くん? 嘘、どうしてここに?
「彼女から離れろ」
目の前までたどり着いた晴くんは一喝すると、私の手を掴み腕の中にしまい込む。
「ごめん里香、遅くなって」
これは幻? ううん、正真正銘の晴くんだ。この温もり、私は知っている。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
「は、はい……」
ホッとしたように、私を再び強く抱きしめる。その途端、一気に涙が溢れた。怖かった、もうダメだと思った。
「晴くん……っ」
愛しさを滲ませながら彼の名前を呼ぶと、ぎゅうっと背中にしがみつく。
「まずいぞ、八神社長だ」
「逃げろ」
背後では、潮が引いたように人が散っていく。彼の存在は、ここに集まる人たちにとって脅威らしい。