オオカミ社長の求愛から逃げられません!

「温かい家族だね」

食事を終え玄関の外まで八神社長を見送ると、彼がぽつりと言った。

「そう、ですかね。毎日こんな感じなので今更よくわからないと言いますか」
「俺は両親と家で一緒に食事をしたことがないから、新鮮で楽しかったよ」
「え? 一緒に食事をしないんですか?」
「二人とも昔から忙しい人だからね」

言いながら、夜の空を見上げている。その横顔がやけに寂しそうに見えた。

大企業の御曹司には、平凡な私にはわからない悩みや不自由さというものがあるのかもしれない。

『そんな風習はここで終わらせましょう』あの時、両親に啖呵を切った彼を思い出す。

今までやりたいこと、したいことも自由に選べなかったのかもしれない。

御曹司というものは、幸せなのか、不幸なのか――。

「風が気持ちいね。ちょっと散歩しない?」
「はい」

私は自然と頷いていた。


< 38 / 46 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop