ぜんぶ欲しくてたまらない。


***



引っ越してすぐはいつも隣にいた芽依がいない寂しさはあったものの、平和な日々が続いていた。


寝起きが悪い俺を起こす母さん。


俺が朝ごはんを食べている間に母さんが父さんを玄関先まで見送る。


憂鬱になりながらも学校へ行き、帰ってきたら3人で夕飯を食べて風呂に入って寝る。


なんでもない繰り返し。


それが狂い始めたのはいつ頃からだったのか。


確か俺が中3になってからだと思う。



「あれ、父さんは?」


「あぁ……最近仕事が忙しいみたいで今日も遅くなるみたいよ」



夕飯の時間になっても帰ってこない父さんを心配して聞いてみると、そう母さんから返事が帰ってきた。


その時はさほど気にしてはいなかったけれど、この時から母さんは相当悩んでいたと思う。


それから父さんの"仕事が忙しい日"が続いた。


土日こそは家にいたものの、そのうち出張で長期不在になる日も増えていた。


中学生の俺はそんなに物事がわからないバカではない。


俺が動いたのは、父さんが珍しく家に帰ってきた平日の夜だった。




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