ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


つーか、花、先に買わなきゃよかった。

待ち合わせに花束抱えて立ってるの、結構恥ずかしいな。

いやでも、近くの花屋は駅にしかないんだから、あとで買うとなると遠回りになるし……。


『見舞い用』というでかい張り紙を花束に貼りつけたい衝動に駆られていると、


「……愛花、お前の知り合い?」


聞き慣れた名前が聞こえて、俺は半ば反射的に顔を上げた。

見れば門から少し離れたところで、制服姿の愛花がこちらを見て突っ立っていた。


……助かった。


「愛花」


心細さから解放されて、安堵混じりに呼びかける。

するとなぜか、愛花は一歩後ずさった。


……なんでだよ。

早く来いって。

< 190 / 405 >

この作品をシェア

pagetop