ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
つーか、花、先に買わなきゃよかった。
待ち合わせに花束抱えて立ってるの、結構恥ずかしいな。
いやでも、近くの花屋は駅にしかないんだから、あとで買うとなると遠回りになるし……。
『見舞い用』というでかい張り紙を花束に貼りつけたい衝動に駆られていると、
「……愛花、お前の知り合い?」
聞き慣れた名前が聞こえて、俺は半ば反射的に顔を上げた。
見れば門から少し離れたところで、制服姿の愛花がこちらを見て突っ立っていた。
……助かった。
「愛花」
心細さから解放されて、安堵混じりに呼びかける。
するとなぜか、愛花は一歩後ずさった。
……なんでだよ。
早く来いって。