ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
女子高生の視線を集めるっていうのは、とんでもなく居心地が悪い。
今度からは、遠回りでもいいから駅で待ち合わせするか。
「……なあ愛花。その人、もしかしてお兄さん、とか?」
聞こえてきた声に、思い出したように振り返った愛花がわかりやすく戸惑った。
愛花の友達ふたりは、俺と愛花の間で視線をいったりきたりさせている。
投げられた問いかけには、まるでそうあってほしい、という願いが込められているように聞こえた。
……なるほどな……。
この男友達が、愛花に好意を寄せているのは明らかだった。
向けられている静かな対抗心に、チリ、と心に仄かな熱が灯るのを感じた。
「そうです」
思いとは裏腹に、俺はできるだけのんびりした口調で言った。
「どーも、妹がお世話になってます」
愛想のいい笑顔を作ってから、ほら行くぞ、と愛花に声をかける。
向かいからじっと注がれてる視線に、逃げるように背を向けた。