ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「ほら、できたぞ」


固まるわたしに目もくれず、リビンクに向かったおーちゃんは、ふたつのオムライスをテーブルの上に置いた。

少し遅れて、また喜びが膨れるのを感じる。


「わたしがいるからって……、それ、どういう意味?」


そそくさと後を追いかけて腰を下ろすと、わたしはまじまじとおーちゃんを見つめた。

胸に生まれたわずかな期待が、ドキドキと波打っていた。


「どうって……そのままの意味だけど」

「ちゃ、ちゃんと言って」


ケチャップをオムライスに垂らしていたおーちゃんはチラリとこちらを見る。

はあ、と息を吐いてから、大きな手でまたわたしの頭をわしゃわしゃした。


「ひとりにしたくないんだよ、お前を。お前は大事な妹みたいなもんだからな」

「……いも、うと」


膨れ上がっていた期待が、シワシワと風船のように一気にしぼんでいくのがわかった。


「……わたしのことなんて、気にしなくていいのに」

「俺が気にしたいんだよ」

「……っ」


おーちゃんの言葉からは、わたしを大切に思ってくれていることが伝わってくる。


すごく嬉しい……けど。

……だけどそれは、きっと家族に対するようなもので。

おーちゃんはやっぱり、わたしを女の子としては、見ていないんだ。
< 21 / 405 >

この作品をシェア

pagetop