ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
気を取り直したように、再び口が開かれる。
「……おーちゃんの体育祭、わたしも見たかったなって」
その内容が、さっき言いかけたものと別のものだということは、なんとなく感じ取ることができてしまった。
けれど俺は、もう一度聞き直すことはしなかった。
言いかけた言葉が、どんなものかわかった気がして——、あえて気づかないふりをした俺は、本棚へと身を乗り出した。
特別分厚くてでかい背表紙を、引っ張り出す。
「いいよ、見ても」
実家から持ってきて、長い間そのままにしていた高校の卒業アルバムを、愛花に手渡した。
受け取る時点で、その正体に感づいた愛花の表情が、パアッと明るくなる。
その表情に、こっちまで頬が緩んだ。
俺が愛花の同級生を羨むように、愛花が俺の学生時代に興味を持ってくれるのが、嬉しかった。
……ところが、自分から渡しておいて、ウキウキとアルバムに夢中になっている愛花の隣で、俺はすぐに手持ち無沙汰になった。
思わず、目に入った服の端を引っ張る。
「……おーちゃんの体育祭、わたしも見たかったなって」
その内容が、さっき言いかけたものと別のものだということは、なんとなく感じ取ることができてしまった。
けれど俺は、もう一度聞き直すことはしなかった。
言いかけた言葉が、どんなものかわかった気がして——、あえて気づかないふりをした俺は、本棚へと身を乗り出した。
特別分厚くてでかい背表紙を、引っ張り出す。
「いいよ、見ても」
実家から持ってきて、長い間そのままにしていた高校の卒業アルバムを、愛花に手渡した。
受け取る時点で、その正体に感づいた愛花の表情が、パアッと明るくなる。
その表情に、こっちまで頬が緩んだ。
俺が愛花の同級生を羨むように、愛花が俺の学生時代に興味を持ってくれるのが、嬉しかった。
……ところが、自分から渡しておいて、ウキウキとアルバムに夢中になっている愛花の隣で、俺はすぐに手持ち無沙汰になった。
思わず、目に入った服の端を引っ張る。