ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「——杉本さんと、付き合うことになった」
水に口をつけたところで、ゴフッ、と咳き込んだ。
こぼす前に、慌ててコップを離す。
「え。……まじで」
「まじ」
ぱちぱちと瞬いてみるが、萩原の表情は、とてもふざけているようには見えなかった。
「……おめでとう」
聞きたいことは色々と頭に浮かんだけれど、口をついて出たのは、そんなひと言だった。
「……ありがとう」
もう一度、今度は落ち着いて水を口に含む。
一番に新歓での出来事が気になった俺は、それを尋ねるかどうか迷って、結局、水と一緒に飲み込んだ。
喜ばしいことのはずなのに、萩原は浮かない顔で続けた。
「実は俺、お前に言ってなかったんだけど。……入社してすぐのとき、一回フラれてて」
「え」
「ほとんど、一目惚れってやつ」
「……そうだったんだ」