ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
昼休み。
萩原に連れられて、俺たちは会社近くのカフェにやってきた。
いつもは自席で食べるか、近くの定食屋さんに行くことがほとんどだから、俺は少し不審に感じていた。
暗めの照明が、居心地のいい雰囲気を醸し出している。
店内にはどちらかというと女性の客が多かった。
「今日はこういう、落ち着いて話せるところの方が合ってるかなって思ってさ……」
「へえ」
言いながらも、どことなく落ち着きのない様子の萩原に、理由をこちらから問いただすことは、あえてしなかった。
注文を済ませ、店員が水を持ってきたところで、萩原はいよいよ切り出した。
「……その、話があってさ」
「話?」
「うん」
コップに手を伸ばしながら、視線だけを向ける。
やけに真面目な面持ちでいるので、俺まで身構えてしまった。