ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
好奇の目やら羨望の眼差しやらの中をそそくさと通り抜けて、おーちゃんの元へ駆け寄る。
そんなわたしに、おーちゃんは怪訝な顔をした。
「あんなとこで立ち止まって、なにしてたの」
「ごめんごめん」
——おーちゃんがかっこよくて、見惚れちゃったんだもん。
心の中でそう言い訳をしながら、わたしは言いようのない優越感を抱いた。
大人な男の人に、……それも、好きな人に学校まで迎えにきてもらえるなんて、まるで少女漫画の主人公にでもなった気分だ。
「……あのなあ。あんまひとりで待たされると、恥ずかしいだろうが」
ぐ、と顔を寄せてきたおーちゃんは、小声でわたしのおでこを軽く小突いた。
……恥ずかしい、って……。
どうやら自分が注目されていることに気づいていなかったわけではなかったみたいだ。
気づいていながら、知らんぷりを決め込んでたんだ。
物申したげな目を向けてくるおーちゃんの耳は、ほんのり赤く染まっている。
どうしよう。
すっごく可愛い……。
わたしは顔が緩みそうになるのを、唇をキュッとして必死にこらえた。