ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「……おーちゃんってばっ」
なんとか追いついて、乱れた息を整える。
「歩くの早いよ」
「さっきのあいつ、彼氏?」
「……へ?」
突然投げかけられた質問に、わたしはこれっぽっちも頭が追いつかなかった。
……彼氏?
誰が? 誰の?
わけもわからずおーちゃんを見つめる。
ぱちぱちと瞬たくわたしを、おーちゃんもじっと見ていた。
けれどしばらくして、「そういうことか」なんてこぼして、自己完結してしまったようだった。
……どういうこと!?
「ねえ、なにが? ちゃんと教えてよ」
「ひみつー」
楽しそうにヘラヘラとするだけで答えてくれないおーちゃんに、わたしはわざとらしくぷくっとむくれてみせた。