ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
結局なにも聞き出せないまま、わたしたちは気づけば目的地に到着していた。
その白くて大きな建物を目にすると、いつだって息がつまる心地がする。
——『梼原結花様』。
そう書かれた表札も、何度見ても見慣れない。
息苦しさを和らげようと深く息を吐いたわたしに目配せをしたおーちゃんは、……ゆっくりと病室の引き戸を開けた。
「お姉ちゃん、来たよ」
わたしは明るく呼びかけながら、足を踏み入れる。
窓際に置かれたベッドに近づいて、力なく笑顔を浮かべた。
「この前きたときから、一ヶ月くらい経っちゃって……ごめんね」
おーちゃんは荷物を置くと、机に置いてあった花瓶を手に取った。
持ってきたお花と入れ替えるのだろう。
静かな病室に、水の音が響く。
「……お姉ちゃん」
わたしの呼びかけに、返事が返ってくることはなかった。
ベッドに横たわり目を開けることのないお姉ちゃんは、まるで童話にでてくる眠り姫のようだ。
体の横に置かれたお姉ちゃんの細くて白い手をとって、わたしはベッドの際に座った。
お姉ちゃんの体温を感じながら、静かに目を閉じる。