転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 ひとりになってからはソファーに座ってテレビをつけてみたりスマホをいじったりしていたのだが、いつの間にか寝入ってしまっていたようだ。

 まあ、それはきっと、未だ昨晩の疲れが残っているからなのだろうが……疲労の原因となった詳細を思い出してしまいそうで、結乃はそれ以上考えることを放棄する。

 春人は彼女の言葉に、表情を変えないままうなずいた。


「大丈夫だ。結乃がいるからまだ死ねない」
「なんかそれ、素直によろこんでいいのか微妙です」


 くすくすと笑う結乃を見上げ、春人も口もとを緩める。

 そうして立ち上がると、自らも彼女の隣に腰を下ろした。


「こわい夢でも、みたのか?」


 今度はいつもの高い位置から、意志の強そうな瞳がまっすぐに自分を見つめる。

 一瞬言葉に詰まり、それから結乃は明るく笑って答えた。


「そうですね。でももう、どんな内容だったかは忘れちゃいました」


 ……嘘だ。忘れたくても、忘れられない。

 前世のことを思い出してから、何度も苦しめられてきた記憶。自分の、死の間際の記憶。

 それでもこんなもの、今目の前で心配そうに顔を覗き込んでくれる彼に教えられるはずがない。

 強がって微笑む結乃に気づいていて、それでも春人も、これ以上は追及しなかった。


「そうか」


 ただひとことそう言うと、彼女の頭にそっと触れる。

 何も言わず、ただ優しく髪を梳かれる感覚にまた涙腺が刺激されながら、結乃はまぶたを閉じてその心地よさに身を任せた。

 嫌に速く脈打っていた鼓動が、少しずつ落ちついてくる。
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