転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 だけどいざこうして顔を合わせると、その決意なんてお構いなしで触れたくなってしまうから困ったものだ。

 昔からずっと続けている剣道で鍛えたメンタルには、自信があるはずだった。
 なのに思わぬところで自分の忍耐力の甘さに気づかされ、ため息をつきそうになる。


「それで、その2年生の男の子というのが──」


 そんな春人の葛藤なんて知る由もなく、結乃は楽しそうに職場であった出来事を話している。

 横顔を見ていた春人は、先ほどから彼女が会話の合間にその小さな手のひらを擦り合わせ、しきりに息を吹きかけていることに気がついた。


「寒いのか?」


 結乃が話している最中だが、思わず訊ねる。
 そうやって自分の話を中断させられても、やはり結乃は特に気にした様子もなく。一瞬きょとんとしてから、苦笑を浮かべた。


「あ、はい……実は少し。冷え性なんですけど、今日は手袋を忘れちゃって」
「それなら──」


 言いながら春人は、彼女からは遠い方の手を着ているコートのポケットに伸ばしかける。

 自分の使っていない手袋を貸そうと考えたはずの彼は、動きを不意に止めた。

 代わりに逆の手で、隣り合う結乃の右手を捕まえる。
 ひやりとした手のひらをひと回り大きい自分のそれで包み込んだ瞬間、彼女がビクリと身体を震わせた。


「俺は体温が高いから、カイロ代わりにしてくれ」


 そんなことを言って、また強く結乃の手を握る。

 勢いでやってしまったものの、内心かなりドキドキしていた。けれどもその動揺はクールな美貌に現れず、表向きはただ無表情があるだけだ。

 結乃は少しの間、驚いた様子で春人を見つめていた。
 その顔がふと、逸らされる。


「あ……はい、ありがとうございます……」


 精一杯こちらから背けるようにしてはいるが、マフラーや髪の隙間から見える頬や耳が赤い。

 横に立ち並ぶ店の明かりや街灯の中でもしっかりとそれが確認できて、堪らず春人はゴクリと生唾を飲み込んだ。
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