転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「ところでずっと気になってたんだけど、その髪どうしたの? いつもは束ねてるのに」


 不思議そうに細い指先を向けられ、ハルトは背中まである青銀色の髪をさらりと揺らしながら首を傾げる。


「髪紐が切れたから、そのままにしているだけだ」
「えぇ? 予備は?」
「ない」
「……はあ」


 返されたセリフに、こめかみを押さえながらため息を吐いた。

 あまり深く思案することもなくランタンと籠を石畳の上に置き、ひとつに編んだ自分の髪の先へと手を伸ばす。


「私のでよければ、あげるわ。わりと新しいやつだから」
「それじゃあ、おまえのは」
「医務室に予備があるから大丈夫」


 話しながら、三つ編みを留める紐をしゅるりとほどいた。

 本っ当にこの男は、剣の腕は一流のくせに日々の暮らしのこととなると無頓着だ。独身の団員はみな王宮敷地内にある寮に入っているのだが、きっとこの調子で周囲の人たちにも何かと面倒をかけているに違いない。

 緑色に染められた紐の隙間に金糸が織り込まれた組紐は、自分の瞳と同じ色が気に入って最近購入したものだった。

 手にしたそれをハルトに差し出しかけて、けれどふと、ユノは動きを止める。


「あ、ちょっと待って」


 言ってから、組紐を持ったまま胸の前で両手の指を組み、目を閉じた。

 数秒ののちパッとまぶたを開けた彼女は、曇りのないまっすぐな笑みでハルトを見つめる。


「お守りになるように祈っておいた。これで絶対、ハルトは負けないわ」


 そのまばゆいほどの明るい笑顔に、自分を見下ろす男が鼓動を速くさせたことなど本人は知る由もない。

 ユノは「ついでだから結ってあげる」とこともなげに言って、無理やりハルトを反転させた。
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