転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「よく来たねふたりとも。春人も、2ヶ月ぶりくらいかな? 今さらだけど、久しぶり」
「お久しぶりです。なかなか顔を出せずすみません」
「謝ることはない。仕事も相変わらず忙しいんだろう? 身体は大事にね」
「お気遣いありがとうございます」


 広い道場の片隅で、3人はよく磨かれた床に正座をしながら向かい合う。

 五月女の歳の頃は七十代前半といったところだろうか。短く切りそろえられた髪は真っ白で顔には深い皺が刻まれているが、しゃんと伸びた背筋やハリのある声はまったく年齢を感じさせず、何より瞳の力強さが印象的だ。
 今は優しげに細められているが、きっと打ち合いとなると鋭く研ぎ澄まされるのだろう。

 そしてその目が春人から隣に座る結乃へと移り、ドキッと心臓がはねた。


「結乃さん、お会いできて光栄です。よくぞ春人と一緒になってくれました。余計なお世話だと知りつつ、見目はいいのに朴念仁でなかなか身を固めないこの男のことはずっと心配していたのです」
「先生……」


 不本意そうな声が漏れる隣で、結乃はブンブン首を横に振る。


「こちらこそ、お会いできてうれしいです! それにその、春人さんは外見も内面もとても素敵な男性なので、私の方が『選んでくれてありがとうございます』という感じで……」


 へにゃ、と笑ってみせる。


「私も五月女先生にご心配をおかけしないよう、精一杯春人さんのことを支えたいと思っています。ふつつか者ですが、今後も春人さんともども見守っていただけるとうれしいです」


 言ってから、深々と頭を下げた。

 そんな結乃を、正面にいる五月女だけでなく、隣の春人も目を丸くして見つめている。
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