夜には約束のキスをして
呼吸がやけに穏やかだった。荒い吐息を漏らしていたはずの口は閉じられ、自然に寝入っているかのようにゆったりと胸が上下している。ひそめられていた眉も柔らかな弧を描き、深青の寝顔は実に安らかだ。もしやと布団の中を探って彼女の手を取ると、一刻前とは比べ物にならないほど熱は下がっていた。
驚きのあまりしばし声を失う。この一週間、どんなに手を尽くしても、深青の熱は下がることがなかった。医者に診せても首を振られるばかりで、原因すらわからなかったものが、なぜこうもあっさりと……。
安堵ゆえに脱力しそうになる一方で、なにかの間違いではと疑いを抱く心が何度も彼女の熱を確かめさせる。何度触れても変わらない。手のひらも額も、あって微熱という感触だった。
回復を確信するや、和真は障子をさっと振り返った。
「美里さん! 美里さん!」
家人を呼ぶべく声を上げる。広大な香山家の屋敷において声を張り上げても、呼び声の届く範囲など限られている。それがわかっていても、声を張らずにはいられなかった。
「なんですか、和真さん。大きな声を出して」
幸いにして、深青の居室に赴く最中であったらしい美里が、間をおかずに障子を開いて現れた。美里は深青の母であり、香山家内部の一切を取り仕切る女主人でもある。隙なく着付けられた着物からは、四十代手前には見えぬ貫禄が漂っている。
驚きのあまりしばし声を失う。この一週間、どんなに手を尽くしても、深青の熱は下がることがなかった。医者に診せても首を振られるばかりで、原因すらわからなかったものが、なぜこうもあっさりと……。
安堵ゆえに脱力しそうになる一方で、なにかの間違いではと疑いを抱く心が何度も彼女の熱を確かめさせる。何度触れても変わらない。手のひらも額も、あって微熱という感触だった。
回復を確信するや、和真は障子をさっと振り返った。
「美里さん! 美里さん!」
家人を呼ぶべく声を上げる。広大な香山家の屋敷において声を張り上げても、呼び声の届く範囲など限られている。それがわかっていても、声を張らずにはいられなかった。
「なんですか、和真さん。大きな声を出して」
幸いにして、深青の居室に赴く最中であったらしい美里が、間をおかずに障子を開いて現れた。美里は深青の母であり、香山家内部の一切を取り仕切る女主人でもある。隙なく着付けられた着物からは、四十代手前には見えぬ貫禄が漂っている。