夜には約束のキスをして
 傘立てに並んだいくつもの傘から自分のものを探しつつ、和真は日頃忘れものの常習犯たる瀬名に一応の確認をとる。この天気で相合い傘などは無謀の極みであるので、忘れていたとしてもどうにもできない。だから単なる確認である。

「さすがにちゃんと持ってきてる。今日忘れたら悲惨だからな」

 瀬名は立ち並ぶ傘のうちの一本に手をのばして引き抜いた。細身のビニール傘はいかにも安っぽく、過去、突然の雨にその場しのぎで購入したものをそのまま使い続けているように思われた。いかにも不精な彼らしいが、傘があるのなら和真としてはなんの文句もない。

「お前がそこまで阿呆じゃなくてホッとした」

 おどけて言えば、瀬名も笑って応じる。

「俺は忘れ物が多いだけで阿呆じゃない。つか、成績はどちらかというといいぞ!」

 どちらかといえば、とわざわざつけ加えてしまうあたりが、馬鹿正直な彼の美点である。


 校舎を一歩出てみれば、猛烈な雨が傘を叩いた。おまけに風のうなり声まで加わって、横に並ぶ瀬名の話も耳をそばだてなければ聞き取れないほどだった。傘を風のふく方向に向けながら、想像以上の荒れ具合に二人は顔をしかめた。

「やばいな! これ!」
「ああ! 傘があってもかなり濡れそうだ!」
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