夜には約束のキスをして
 風雨に負けぬよう強い語調で会話するも、談笑できるような状況では全くない。二人は会話を早々に諦め、もくもくと家路を進むことに集中しはじめる。ひたすら早く温かい場所に着きたいと、ただその一念だ。
 学校からいくらもしないうちに、靴の中が浸水して、歩くたび音を鳴らすようになった。しばらくすると今度はスラックスが水を含んで、肌に張り付くようになる。そうしてだんだんと、全身が下から濡れている範囲を広げてゆき、平坦な道が登り坂になって深青の家へと続く道の分岐にさしかかった頃には、肩のあたりまでがびしょ濡れだった。
 不幸にして二人の家は学校からかなり離れたところに位置している。しかし、ここまでくれば和真の家はあとひと息というところであった。
 そんな折のことである、とてつもない強風が二人の間を駆け抜けて、瀬名の傘をさらっていったのは。振り返ったときには、華奢なビニール傘などはるか遠くに吹き飛ばされていた。唖然としつつも状況を把握すると、和真は飛びつくように瀬名に自分の傘をさしかけた。持ち手を押し付けるように瀬名に握らせると、思わず受けとってしまってから彼は目を丸くして和真を見た。

「おま! 濡れ――」
「大丈夫だから! お前のほうがこっから遠いだろ! 俺は走って帰ればすぐだから!」
「でも――」
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