夜には約束のキスをして
 風に吹かれて、身体が寒気に震える。これ以上身体を冷やしてはさすがにまずかろう。落としていたバッグを手早く抱えて、玄関の扉を開くと、その隙間に身を滑り込ませた。

「和真? 帰ったの?」

 扉の開閉音を耳にしたのか、リビングから母がひょっこり顔を出した。濡れねずみの和真を見て、ぎょっと目を見開く。

「ちょっと、今朝ちゃんと傘持ってったんじゃ……」
「とりあえず、タオル先に持ってきて」

 驚き呆れる母を制して頼むと、はいはいと母はすぐに頷いて、脱衣所に引っ込んでいった。ほどなくしてタオルを持って出てきた母にフェイスタオルを渡されて、和真は水が滴って鬱陶しい髪を雑に拭う。

「とりあえず、お風呂入ってきなさい。ちょうど沸かしていたところだから」
「うん。ありがと、母さん」

 言われるままに脱衣所に入った。


 肌にまといつく濡れた衣服を苦労しながら脱ぎ捨て、温かい湯に身をひたせば、染み渡るように身体の熱が高まるのを感じた。思っていたよりもずっと身体は冷え込んでいたらしい。あのまま、暖を取らなければ、間違いなく熱を出していただろう。タイミングよく風呂を沸かしてくれていた母に感謝した。
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