夜には約束のキスをして
湯の温度が肌になじんで十分身体が温まってから浴室を出た。いつの間にか母が用意してくれていた着替えを身に着け、髪の水分を肩にかけたタオルで拭いながらリビングの戸を開けると、ダイニングテーブルに夕食の皿を並べていた母が振り返った。
「身体は温まった?」
「うん。すぐに入れて助かった」
母は、よかったとうなずくと、対面式のキッチンに入っていき、食事の準備に戻る。カチャカチャと食器の触れ合う音を聞きながら、和真はダイニングの椅子に腰かけて髪をタオルでがしがしとふく。
「そういえば、さっき深青ちゃんから電話があったわよ」
ぴたりと和真は手を止めた。
「なんて?」
「んー、それが特になにも。かけ直すとも言ってなかったし、伝言も頼まれなかったのよねえ。和真は今お風呂ですって言ったら、そうですかってそれだけ」
これは、あまり好ましくない状況ではないだろうか。電話があったなら、深青は帰宅を知らせようとしてくれたのだろう。しぶしぶでも約束したのだから、そこはきちんと守る性格だ。しかし、この猛烈な雨に、帰宅早々風呂につかっている和真とくれば、勘のよい彼女はこちらの事情を察したはずだ。なにも言わずに電話を切ったということは、今夜はもう来るなということなのだろう。顔を見せたりなどしたら、目尻を吊り上げて怒られそうだ。
「身体は温まった?」
「うん。すぐに入れて助かった」
母は、よかったとうなずくと、対面式のキッチンに入っていき、食事の準備に戻る。カチャカチャと食器の触れ合う音を聞きながら、和真はダイニングの椅子に腰かけて髪をタオルでがしがしとふく。
「そういえば、さっき深青ちゃんから電話があったわよ」
ぴたりと和真は手を止めた。
「なんて?」
「んー、それが特になにも。かけ直すとも言ってなかったし、伝言も頼まれなかったのよねえ。和真は今お風呂ですって言ったら、そうですかってそれだけ」
これは、あまり好ましくない状況ではないだろうか。電話があったなら、深青は帰宅を知らせようとしてくれたのだろう。しぶしぶでも約束したのだから、そこはきちんと守る性格だ。しかし、この猛烈な雨に、帰宅早々風呂につかっている和真とくれば、勘のよい彼女はこちらの事情を察したはずだ。なにも言わずに電話を切ったということは、今夜はもう来るなということなのだろう。顔を見せたりなどしたら、目尻を吊り上げて怒られそうだ。