夜には約束のキスをして
「あ、和真先輩、おはようございます」
朝に弱い文也は、寝ぼけ眼に欠伸まじりの声で、挨拶もおざなりだ。先輩に対する敬意も、お嬢様に対する畏敬も感じられない。普段どおりのその軽薄さが、今はやけに和真の神経にさわった。
文也ならば、お仕えする屋敷のお嬢様の唇に触れることなど、容易くやってのけそうだ。むしろ、役得とさえ思うかもしれない。そのことに、自分が口を挟める立場でもないのに、和真はひどく苛立った。しかし、一方で感じたのは、たまらない羞恥だった。
この五年間和真は、自分が深青にとって不可欠な存在だと信じて、それは熱心に深青のもとへ通った。和真をつき動かしていたのは、深青を守れるのは己しかいないという使命感だった。だからこそ、どんなにひどい嵐の夜でも深青のもとへ行かなければという思いに駆られたし、彼女と引き離されていた二日間にひどく狼狽した。
そうであるのに、たった今和真につきつけられたのは「和真がいないのなら、代わりはいくらでもいる」という痛烈な事実だった。和真が抱いていた使命感など、騎士気取りの自己陶酔にすぎないのだという現実が、和真の胸に突き刺さった。
「和真? どうした?」
朝に弱い文也は、寝ぼけ眼に欠伸まじりの声で、挨拶もおざなりだ。先輩に対する敬意も、お嬢様に対する畏敬も感じられない。普段どおりのその軽薄さが、今はやけに和真の神経にさわった。
文也ならば、お仕えする屋敷のお嬢様の唇に触れることなど、容易くやってのけそうだ。むしろ、役得とさえ思うかもしれない。そのことに、自分が口を挟める立場でもないのに、和真はひどく苛立った。しかし、一方で感じたのは、たまらない羞恥だった。
この五年間和真は、自分が深青にとって不可欠な存在だと信じて、それは熱心に深青のもとへ通った。和真をつき動かしていたのは、深青を守れるのは己しかいないという使命感だった。だからこそ、どんなにひどい嵐の夜でも深青のもとへ行かなければという思いに駆られたし、彼女と引き離されていた二日間にひどく狼狽した。
そうであるのに、たった今和真につきつけられたのは「和真がいないのなら、代わりはいくらでもいる」という痛烈な事実だった。和真が抱いていた使命感など、騎士気取りの自己陶酔にすぎないのだという現実が、和真の胸に突き刺さった。
「和真? どうした?」