夜には約束のキスをして
触れ合いそうな間合いが二人の緊張を高める。深青は常と同様に羞じらい、視線をはずす。常と同様ならば和真は、深青の唇の自然な赤さにたまらない渇望を覚えるはずだった。だが今日に限っては、その赤から視線をそむけてしまいたい心持ちになる。
深青の頬に添える手さえ震えそうになった。彼女は和真の変化に気がつく素振りもなく、まぶたを閉じる。身体に染み付いた習慣が、和真の心を置き去りにしたまま、彼女の顔を引き寄せる。あと十センチ、深青の吐息に触れた。五センチ、互いの前髪が重なる。三センチ、彼女のまつげが震える…………。
唇の同士が触れ合う瞬間を目前にして、和真は深青の身体を己から引き剥がした。
「――っ、和真……?」
はっと我に返れば、眼前には、わけがわからず目を丸くする深青がいる。心の中には、ひたすら駄目だと叫ぶもう一人の自分がいる。心と身体があまりにもちぐはぐな自分を悟って、和真は頭を抱えた。こんな心境のままで、どうして恋い慕う女の子に口付けなどできると思ったのだろうか。心の伴わぬ行為は、こんなにも虚しくて、苦い。
「深青は、こういうことを、他の男とできるのか……?」
隠しきれない懊悩がとうとう和真の口から溢れ出た。投げ出された疑惑が波紋となって、二人の間に数秒の沈黙を生む。しばしののちに、困惑をあらわにした深青が、その沈黙を破った。
「…………なにを、言っているんだ……? そんなことをするはずが……」
深青の頬に添える手さえ震えそうになった。彼女は和真の変化に気がつく素振りもなく、まぶたを閉じる。身体に染み付いた習慣が、和真の心を置き去りにしたまま、彼女の顔を引き寄せる。あと十センチ、深青の吐息に触れた。五センチ、互いの前髪が重なる。三センチ、彼女のまつげが震える…………。
唇の同士が触れ合う瞬間を目前にして、和真は深青の身体を己から引き剥がした。
「――っ、和真……?」
はっと我に返れば、眼前には、わけがわからず目を丸くする深青がいる。心の中には、ひたすら駄目だと叫ぶもう一人の自分がいる。心と身体があまりにもちぐはぐな自分を悟って、和真は頭を抱えた。こんな心境のままで、どうして恋い慕う女の子に口付けなどできると思ったのだろうか。心の伴わぬ行為は、こんなにも虚しくて、苦い。
「深青は、こういうことを、他の男とできるのか……?」
隠しきれない懊悩がとうとう和真の口から溢れ出た。投げ出された疑惑が波紋となって、二人の間に数秒の沈黙を生む。しばしののちに、困惑をあらわにした深青が、その沈黙を破った。
「…………なにを、言っているんだ……? そんなことをするはずが……」