夜には約束のキスをして
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翌日の朝、細切れの睡眠を繰り返して明け方ようやく深い眠りにつけた和真をたたき起こしたのは、けたたましく連打される呼び鈴の音だった。続いてパタパタと廊下をスリッパで歩く音が聞こえて、すでに起床している母が応対に出たらしいとベッドの中から察する。
時計を見てみれば、時刻は目覚ましの鳴る一分前だ。他人の家を訪問するには非常識と言われてもしかたのない時間帯である。
布団にしがみつくのを早々に諦めた和真が目覚ましを切って着替えを始めていると、パタパタというスリッパの音が再び聞こえ、今度は和真の部屋の前にやってきた。
「和真? 起きてる?」
「起きてるよ。俺に客?」
「そうみたい。学校の後輩ですって。深青ちゃんのところに住み込みの――」
文也だ。彼がこんな朝から和真に一体なんの用があるというのだろうか。怪訝に思いながらも、扉越しの母に向かって頷く。
「分かった。着替えたらすぐ行く」