夜には約束のキスをして
制服を身に着けて顔を洗い、最低限人前に出られる身だしなみを整えると、和真は玄関の扉を開けた。
「遅いですよ」
朝の挨拶もすっとばして不満を述べる制服姿の後輩が、だらしなく塀にもたれて立っていた。文也は塀に預けていた背中を起こすと、扉を開けたまま押さえている和真の全身をじろじろ見回した。
「おはよう、文也。こんな朝にどうし……」
「かばんはどうしたんですか?」
「は?」
「通学かばんですよ。今から出るのに、手ぶらでどうするんです」
飄々として他人を気遣わない文也が相手の都合を無視した発言をするのは今に始まったことではない。しかしこれほどまでに説明を割愛されると、長年の付き合いで慣れているとはいえ、和真もあっけにとられるしかなった。
いつまでも反応を返さない和真にしびれを切らした文也は、「ほらさっさと取りに行ってください」と、和真の背中をぐいぐい押しはじめる。さすがの和真も「ちょっと待てよ!」と声を上げた。
「こんな朝からなんなんだ? まだ六時だぞ。通学の迎えに来るにしても早すぎるだろう」
「むしろぎりぎり起きてそうな時間まで待ったことに感謝してほしいくらいです。こっちは深夜からじりじり待機してたんですから」
「……深夜?」