桜の下に立つ人
 意図の分からない質問に美空は眉を寄せる。美空が誰と食事をしても、彼女には関係ないだろう。
 けれども、その質問が発せられた途端、教室の空気は変質する。誰もあからさまにこちらを振り向いたり、おしゃべりを中断したりはしない。けれど、あえて自然なふうを装っているようないびつな気持ち悪さが生まれた。
 教室中の生徒が実はじっとこちらの会話に耳を澄ませているような不気味な感覚だ。
 美空が何も言えないで固まっているうちに、その疑惑は本物になった。不運なことに、話題の当事者たる悠祐がこの場にやってきてしまったのだ。

「結城さん、いる?」

 教室の後ろ側のドアを引いて控えめに姿を現した悠祐は、よそ行きの作った声音でそばにいた生徒に尋ねた。彼が教室を包む異様な雰囲気に気がついたのはそのあとだった。
 不審そうに教室全体をさっと見回して、窓際の一番後ろにいた美空と目が合う。

「あ、みそら……」

 その呼称を初めて聞くのがどうして今なのだろう。こんな状況でもなければ、嬉しく感じられたかもしれないのに。
 「結城さん」と呼んだときよりもよほど馴染んでいて、きっと悠祐の心の中ではいつも「美空」と呼ばれているのだ。
 悠祐が美空を呼び捨てにした途端、ざわっと空気が揺れた。クラス中の人が顔を上げて、美空と悠祐を交互に見る。

「うそ、一緒にご飯食べてる人って浅井先輩だったの?」

 教室の真ん中くらいにいた女子が思わずといった様子で声を上げた。

「浅井先輩って?」
「浅井先輩っていったら、野球部のエースじゃん」

 聞き返したのは、美空に話しかけてきた生徒で、そこに男子が割り込んだ。そこからはもう言いたい放題だった。

「エースって、あの?」
「うちの野球部が初めて地区予選勝てたの、その人のおかげって話だよね」
「そんな人がなんで結城さん? 接点なくない?」
「顔が好みだったんじゃない? ショック~、ちょっとファンだったのに」
「俺は結城さんがそんなミーハーだったってほうがショックだぁっ」
「お前、密かに結城さんのファンだったもんなぁ」

 美空は机の上で両手をぎゅっと握る。
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