お見合い夫婦!?の新婚事情~極上社長はかりそめ妻を離したくない~

夏江の手術が終わり、この関係が終わるのも時間の問題。本当なら今ここで果歩から〝これまでありがとうございました〟と決別の言葉を言わなければいけないのだろう。それなのにそれができなくて、帰りの車の中はいつも以上に饒舌になる。

あともう少しだけ。できる限り一緒にいられる時間を引き延ばしたい。

そんな想いとは裏腹に、離れるなら早い方がいいという冷静に考える部分もあり、その両方が土壇場でせめぎ合う。

(でもこのまま晴臣さんの優しさに漬け込んでいていいの?)

ふとそんな質問をいっぽうの自分からかけられた。

偽りの恋人として祖母に会うなどという茶番に付き合ってくれた優しい晴臣だから、果歩から終わりの言葉を告げなければこの関係を続けなければならないと考えるかもしれない。そんな彼の性格を逆手にとってズルズルと一緒にいるのは、晴臣のためにも自分のためにも良くないことだ。

車がマンションに到着し、玄関のドアを開けたちょうどそのとき、果歩はようやく離れる決心をした。

ネクタイを緩めながらリビングのソファに座った晴臣の前に立つ。


「晴臣さん」

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