哀愁の彼方に
では、当初の計画から二百万円も復興資金が足りない。市松は、村人にそのことを率直に
詫びた。しかし、村人達は、誰一人として市松を責めなかった。むしろ村人達の結束は、
強化された。援助資金の足りない部分は、自分達の労働で水田を復旧しようとの合意が生
まれた。村人達は、すぐさま、自分達で復旧する箇所を選定して水田復旧作業に精を出し
た。節は、毎日、毎日、村人達の飯の炊き出しにあけくれた。診療所は、病人と村人達の
協議の場所として使用された。そのために市松も節も眠れない夜が続いた。それでも節は、
愚痴をこぼすどころか、いつも笑顔を絶やすことはなかった。市松は、村人達に混じり土
砂を運ぶ作業に没頭した。村人達は、肉体的な疲れのあまり殺気立って、ささいなことで
よく喧嘩をした。彼らは、水田を一日も早く復旧させて晩生の稲苗を植えなければ、収穫
に間に合わないことを十分に知っていたから、さらなる焦りが高じて殺気だった。人力で
復旧させる水田の面積は、六丁5反の面積であった。残りの十五丁の面積は、重機で復旧
させるだけの資金のあてがあった。村人達は、焦った。とてつもない面積に自暴自棄にな
る者も現れ出した。しかし、多くの修羅場をくぐり抜けてきた節と市松は、極めて冷静で
落ち着いていた。彼らが恐れていたのは、村人達の諦めの気持ちが芽生えてくることだけ
だった。そのために彼らは、喧嘩の仲裁や村人の子守やさらに動けない年寄りの看病に至
るまで走り廻った。市松と節の身体は、くたくたに疲れ切っていた。二人は、諦めなかっ
た。力を合わせることができれば、六丁五反の水田を見事に復旧させてそこに稲苗を植え
ることができると信じていた。それは、かつて自分達自身が体験した経験からくる自信で
あった。かつての苦しさに比べれば、今回の試練は、終わりが見えている試練である。作
業を続ければ、いつかきっと水田は、元に戻せる試練であることを村人達に市松は、力説
した。村人達は、市松の励ましに載せられて、諦めかけては、諦めずに作業を続けていた。
そのことは、おのずから復旧作業を進展させ六丁5反のうち、おおよそ三丁8反もの面積
にも及んでいた。もと通りに回復ができた水田から、晩生の稲苗を植えて最初に田植えを
した回復水田の稲は、青く伸びて天wp刺すような若葉色を一面に見せていた。残りの水
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