哀愁の彼方に
田の回復作業は、連日に渡り続けれては、翌日の予定の話し合いまでも、診療所で遅くま
で行われていた。それでも市松と節は、一生懸命に村人達のための助けになろうと努めた。
 ある日のこと、村の子供数人が、回復作業を見に来て、尻無川の土嚢の上で遊んでいた。
この川から水田用に引水した用水路に復旧作業のために仮の木の橋が掛けてあった。仮の
橋と言うよりも、それは、粗末な木の板を使って用水路の上に掛けられていた。数人の子
供は、その板の上から笹で作った船を流して遊んでいた。この日は、市松と節は、復旧作
業を手伝うためにこの仮橋の近くで作業をしていた。節は、村人達の昼食である握り飯を
持って昼どきに備えていた。市松は、土砂を一輪車で運ぶ仕事に精を出していた。この二
人に会うために東中由美と言う足の悪い女の子が、節に手を振っていた。十歳になったば
かりの由美は、節と市松にぞっこんなついていた。子供のない市松たちにとって彼女は、
わが子の以上に可愛く思っていた。節は、由美が手を振るあどけない姿を見つけて応答の
ために手を振った。由美は、節が応答したことを知ると嬉さをさらに表現して大きく手を
振り回した。節は、それを見ておどけた仕草で由美に応答した。そこへ日傘を被った村人
が、汗を流しながら一輪車に土砂を満杯に積み上げてやって来た。由美に気付いた彼は、
大声を上げた。
「危ないぞ!!退け!!」
彼は、一輪車を押しながらよろけた。そのときに、一輪車の隅が由美の足に当たった。そ
のとたん由美は、
「わっ!!」
と悲鳴を上げて、用水路に転落した。その光景を目にした節は、村人達の昼食のための多
くの握り飯をその場に投げ捨て、一目散に由美が転落した用水路のあたりに駆けつけた。
節は、由美を助けようとして用水路沿いに土嚢の上を走った。しかし用水路の流れは、速
く、しかも用水路はコンクリート造りで流される由美は、握れるものは、何一つなかった。
由美は、たちまち十メートルほど流されてついに流れの中に沈んでしまった。節は、夢中
で用水路の中へ飛び込んだ。彼女は、必死になり由美を捕まえようとしたが、流れが速い
うえに節の着ている衣類が邪魔になってなかなか由美を捕まえられなかった。さらに二十
メートルほど流されて節は、用水路のコンクリートが壊れた場所から柳の木が生えている
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