哀愁の彼方に
小さな枝に引っかかった由美を捕まえた。節は、しっかりと由美を抱きかかえてその木の
幹の部分に?まった。事の重大さに村人達は、用水路の中で奮闘する節の元へ駆けつけて
きた。節は、由美を抱えながら小さな柳の木の幹にしがみついていた。その幹は、いまに
もへし折れそうにしなって揺れていた。
「はよう!!はよう!助けんといかん!」
「ロープや!ロープを下ろせ!」
節に向けてロープが、投げられた。節は、由美の身体をロープで縛り引き上げるように合
図を送った。由美は、無事引き上げられた。
「水を吐かせろ!市松先生を呼べ」
由美は、水を吐かせられ市松の人工呼吸で見事に息を吹き返した。村人が、由美を助けあ
げたロープを節にも投げた。節は、そのロープを手にして身体を縛ろうとしたとき、細く
しなっていた柳の幹がへし折れてしまった。それと同時に節は、流れに流されてまもなく
流れが急になる堰にあたりで沈んでしまった。村人の一人が、その中に飛び込んで節の身
体にロープを縛りつけ引き上げる合図をした。由美が引き上げられた場所から五メートル
ほど下流で引き上げられた。飛び込んだ村人は、流れをせき止める堰板で止められて自力
で用水路から這い上がってきた。節は、引き上げられたものの気を失っていた。
「早よう!水を吐かせろ」
年老いた男が、節をうつぶせにして、背中を叩いた。節は、大量の水を口から吐き出した。
しかし、意識は戻らなかった。
「あかん!早よう!先生を呼べ」
市松は、飛んで来た。彼は、しっかりとした手つきで人工呼吸を繰り返した。彼が一時間
も人工呼吸を繰り返すと節は、うつろな目を開けた。市松は、すぐさま、節の瞳孔の開き
具合を確かめた。すでに市松の額からは、玉のような汗が流れ落ちていて、着ている衣類
は、汗で水を浴びたようになっていた。市松は、瞳孔が開いている節の瞳を狼狽のあまり
確認できなかった。彼は、動転した気持ちのあまり、節を力いっぱい抱きしめて、何度も
何度も節の頬に頬ずりをした。村人からも狼狽した声で、救急車の到着をせかす言葉が湧
き上がっていた。その時、栗本善三が、息を切らせて走ってきた。
「救急車が来たぞ!狭くてここまで入り込んでこれない!節さんを担架で運べ!」
救急車の隊員の手早い動きは、動いている機械のように節を担架に載せて救急車まで運ん
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