哀愁の彼方に
でいった。市松は、救急車に乗り込み節の心臓を必死にマッサージしていた。救急車は、
三十分ほどけたたましいサイレンを鳴らして総合病院へ着いた。節は、救命救急室へ運ば
れていった。市松は、節の処置を病院の医師達にまかせて精神状態が真っ白になったまま
待合室の椅子に倒れ込んでいた。元気になった由美や村人達が、心配して総合病院へ駆け
つけてきて、由美は、市松の身体に抱きつき泣き出していた。
「うちのために、おばちゃんが、こんな目にあってしもうて、皆、うちのせいや」
「由美ちゃん、そんなことあらへん。おばちゃんは、きっと助かる。」
市松は、由美を強く抱きしめた。心配した村人達は、市松にかけより彼の手をしっかりと
握った。村人達の顔は、すでに涙でくしゃくしゃになり見る目もなかった。
「節さんは、きっと助かる!あんな神様のような人をこのまま死なせてたまるものか!ワ
ぁっつ!」
由美の父親の東中益三が、強気な言葉の後に悲しみにこらえきれず嗚咽を上げた。それに
つられて数人の村人達も、しくしくと泣きじゃくり涙を流していた。市松は、村人達のこ
のような思いやりに感謝をしながらも、節のことが気がかりであった。彼は、村人達の問
いかけには気丈夫に受け応えをしていたが、本当の心の奥底では、節の瞳孔が開いていた、
そのことがどうにも気になって不安のどん底に落とし込まれていた。
「南先生!最善を尽くしましたが、お気の毒です」
救急救命室の医師が、市松に無念の表情で節が、息を引き取ったことを告げた。
「わッ!節!ううッ!」
市松は、泣き崩れた。由美も村人達も、泣き崩れた。市松は、冷たくなった節の身体に何
度もすがりついた。節の身体は、すでに硬直して冷たかった。村人達も大声で泣いた。節
の遺体は、病院の職員の手で棺に入れられ、村人達や市松に見守られながら、診療所へ帰
ってきた。
 多くの村人達に惜しまれて見送られて節は、火葬にされた。節の葬式後、村人達は、節
が一生懸命に計画した水田回復の復旧作業を完成させようと昼夜に渡って働いた。誰一人
として、愚痴をこぼす者は、いなかった。村人達は、節を亡くしたした悲しみと節が、あ
れほどにまでこの村のために尽くした意思に報いようと働き働いた。節の四十九日の法要
が、村人達の手でとり行われた。優しく微笑む節の遺影を前にして、また、多くの村人達
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