哀愁の彼方に
を助けて死んでしまうのじゃないかとの思いで、頭の中が駈けずり廻った。
市松は、池から引き上げられた妙子から水を吐かせて、冷静に妙子の脈をとり、心臓の鼓
動を確認した。
「生きている! よし!助かるかもしれない!」
市松は、独り言を言った。そうして妙子の瞳孔を確認した。
「早よう!毛布や!由美ちゃん、毛布を持ってきてくれ!」
由美は、悪い自分の足を引きずりながら毛布を持ってきた。
「誰か、救急車を呼んでくれ!」
「市さん!助かるやろか?!」
「助けて見せる!こんな優しい子供を死なせてたまるか!わしが助けてみせる」
この言葉を聴いた由美は、市松は、死ぬ気であることを見抜いたが、彼女にはなすすべは
なかった。
「おじさん!死なないで!」
由美は、それだけを念じて自分の手を固く組んで、震えていた。市松は、極めて落ち着い
ていた。彼は、妙子に対して口移しの人工呼吸を開始した。三十分程続けると妙子の口か
ら汚物が、吹き上がってきた。市松は、この時、妙子を助けられると確信したが、妙子の
意識は、いまだに戻ってこなかった。市松は、人工呼吸をさらに続けた。今度は、市松が、
血を吐いた。しかし彼は、妙子の意識が戻るまで人工呼吸を止めなかった。四十分ほど人
工呼吸を続けて、また彼は、血を吐いた。その血を拭おうとしたとき、妙子の目が開いた。
意識が、戻ったのだ。妙子は、市松の顔を見るなり、突然に泣き出して市松にしがみつい
た。
「妙ちゃん!もう大丈夫や!おっちゃんや!判るか?」
「ううん!判る!」
「妙ちゃんは、ええ子や。おっちゃんは、妙ちゃんが大好きや。こんなことで死んだらあ
かん。」
市松は、再び大量の血を吐いた。彼は、かすんでいく意識の中に節の顔が、ぼんやりと
浮かんでくるのを感じた。そうして無意識のうちに節への思い出が、目まぐるしく一気に
交錯した。元八達は、あわてふためいた。市松に何度も声を掛けたが、彼は応答しなかっ
た。
市松は、生まれて初めて言いようの無い、清々しい安らかな気持ちに浸りながら、血を吐
いた口元に微笑を浮かべて息が絶えた。
そのとき市松の懐から、節の写真が転げて落ちた。それを見ていた由美は、節の写真を市
松の胸に抱かせて彼の手を写真に絡ませた。
奈落の中で生きた二人の人生は、その喜びと共に愛する妻の故郷で終わった。一生懸命に
市松は、池から引き上げられた妙子から水を吐かせて、冷静に妙子の脈をとり、心臓の鼓
動を確認した。
「生きている! よし!助かるかもしれない!」
市松は、独り言を言った。そうして妙子の瞳孔を確認した。
「早よう!毛布や!由美ちゃん、毛布を持ってきてくれ!」
由美は、悪い自分の足を引きずりながら毛布を持ってきた。
「誰か、救急車を呼んでくれ!」
「市さん!助かるやろか?!」
「助けて見せる!こんな優しい子供を死なせてたまるか!わしが助けてみせる」
この言葉を聴いた由美は、市松は、死ぬ気であることを見抜いたが、彼女にはなすすべは
なかった。
「おじさん!死なないで!」
由美は、それだけを念じて自分の手を固く組んで、震えていた。市松は、極めて落ち着い
ていた。彼は、妙子に対して口移しの人工呼吸を開始した。三十分程続けると妙子の口か
ら汚物が、吹き上がってきた。市松は、この時、妙子を助けられると確信したが、妙子の
意識は、いまだに戻ってこなかった。市松は、人工呼吸をさらに続けた。今度は、市松が、
血を吐いた。しかし彼は、妙子の意識が戻るまで人工呼吸を止めなかった。四十分ほど人
工呼吸を続けて、また彼は、血を吐いた。その血を拭おうとしたとき、妙子の目が開いた。
意識が、戻ったのだ。妙子は、市松の顔を見るなり、突然に泣き出して市松にしがみつい
た。
「妙ちゃん!もう大丈夫や!おっちゃんや!判るか?」
「ううん!判る!」
「妙ちゃんは、ええ子や。おっちゃんは、妙ちゃんが大好きや。こんなことで死んだらあ
かん。」
市松は、再び大量の血を吐いた。彼は、かすんでいく意識の中に節の顔が、ぼんやりと
浮かんでくるのを感じた。そうして無意識のうちに節への思い出が、目まぐるしく一気に
交錯した。元八達は、あわてふためいた。市松に何度も声を掛けたが、彼は応答しなかっ
た。
市松は、生まれて初めて言いようの無い、清々しい安らかな気持ちに浸りながら、血を吐
いた口元に微笑を浮かべて息が絶えた。
そのとき市松の懐から、節の写真が転げて落ちた。それを見ていた由美は、節の写真を市
松の胸に抱かせて彼の手を写真に絡ませた。
奈落の中で生きた二人の人生は、その喜びと共に愛する妻の故郷で終わった。一生懸命に