ハッピーエンダー

ベッドもこんな大きなものじゃなくて、光莉の家の小さいベッドで、ふたりでくっついて眠りたい。髪をなでて、体を寄せ合い、腕を回して抱きしめて。光莉の体はやわらかく細いのに、俺とピッタリ密着する。ドキドキする感覚を隠しているとき、〝生きてる〟って強く感じていた。

今、ここに光莉がいたら、彼女に似合う服を買って、豪華な飯を食わせて、俺に夢中になってもらうために金を使うだろう。それでもきっと光莉は「いらない」って言うんだ。俺も結局、飾らない光莉の服装と、彼女が作った飯が好きだから、無理強いできない。

「……光莉。光莉。光莉」

つぶやいた自分に驚いた。誰かに会いたくて涙が出たのは、初めてだった。

光莉に会いたい。

どこにいるんだろう。これから二度と会えないなら、もう死んだってかまわない。でも会えるかもしれないから、死ねない。

会ってどうなりたいとかじゃなく、俺にとって光莉との関係は、アダムとイヴみたいなものだった。化け物ばかりが住む世界で初めて出会った自分と同じ人間。セックスしたいとか付き合いたいとか、結婚したいとか、そういうことじゃない。

楽園の中で、いつまでもふたりでいたい。本当に、それだけなんだ。
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