ハッピーエンダー
味噌汁に口をつけたとたん、彼はそれをすぐに飲み干し、後からサバを少し食べた。しかし酔いのせいでサバ自体は食べられないのか丸ごと残し、私を見ている。
「すげぇ美味い。……けど、食べられない。ごめん」
「いえ。水分だけでもとれたならよかったです。無理して食べて吐いちゃったら大変ですし」
なんだか素直で、そこまで変な人ではない気がしてきた。体は大きいけど乱暴な振る舞いはしないし、仕草も大人びている。彼が少し落ち着いたところで、私は気になったことを尋ねてみた。
「……女性のお家、どうして追い出されちゃったんですか?」
なるべく刺激しないように優しい口調で聞いたはずなのだが、彼は「フハッ」と吹き出し、また酔いが回ったように目を見開いて笑いだした。
「追い出されたんじゃねぇよ。逃げてきたの。その女さ、名前忘れたけど、もうゲロ吐くくらい生理的に無理になっちまってさ」
水樹さんは前髪をクシャクシャとかきあげ、その不快感を露わにする。ヤバい。なんだか様子がおかしくなってしまった。言葉も強烈で、怖くなった私は味噌汁とお箸を持ったまま固まった。