溺愛確定 冷徹御曹司とのお見合い事情
吉池さんの最後の言葉が気になり、一瞬手の力が抜けた。
それが抵抗をやめたと思ったのか。
吉池さんの手は頬から離れ、向き合う形で話が進められる。
「俺はこの縁を大事にしたい。だが今はちょうど仕事が忙しい時期ですれ違いになりかねない。それは嫌なんだ。だから俺とひと月一緒に暮らしてくれないか?」
「……はい?!」
いきなりの同棲の提案に驚き、大きな声が出てしまった。
でも吉池さんは気にしない。
「名刺の裏に住所を書いておいた」
手元にある名刺を裏返してみるとたしかに手書きで住所が書かれていた。
「仕事のことはハルから聞いている。家を出るのは難しくないよな?」
仕事は地元の貿易関係の民間企業に社内通訳として就職していたけど、あまりの忙しさに体調を崩して辞めたばかりだ。
今はエージェントに登録して仕事の依頼が来るのを待ち、派遣先の企業や行政の職場や取引先に出向いて、通訳を行っている。
だからその点に関して問題はないんだけど、いきなりのことで返答に困る。
そんな私を見かねて吉池さんが言葉を重ねる。